コンピュータサイエンスの学位をとるためにUniversity of the Peopleに入学した

2021年4月、アメリカのオンライン大学 University of the People (以下 UoPeople) に入学して、社会人大学生になりました。コンピュータサイエンスの学位取得を目指しています。

入学してからの9週間、英語能力の証明のために English Composition 1 (ENGL 0101) を受講し、先日無事に修了できました。そこで、入学から今に至るまでを振り返ってみます。

目次

UoPeople とは。入学するには

University of the People (UoPeople) は、学費が無料*1のアメリカのオンライン大学です。コンピュータサイエンスの他に、経営学、MBAなどのコースがあります。

www.uopeople.edu

UoPeopleのことを知るきっかけ、入学するきっかけとなったのは、plantさんとえんぴつさんのブログです。

tmkk.hatenablog.com

empitsu88.hatenablog.com

学校の特徴は、上記のブログに詳しく書かれているので割愛します。中でも自分が気に入ったのがこれらの点です。

  • スタンスがよい 世界中から高等教育へのアクセスを可能にし、学費を無料にすることで、経済的・地理的・政治的・個人的な制約の克服を支援する *2
  • そのため学費が無料(試験料は別途必要)
  • アメリカの認定を受けた大学(National Accreditation)なので正式な学位を取得できる
  • 完全オンラインでリアルタイムの授業がないため自分のペースで学べる
  • 課題が毎週あるのでモチベーションを維持しやすい
  • スピーキング力は不要

また、入学手数料が$60とお手頃なので、お試し感覚で気軽に申し込みできるところも魅力でした。

入学試験は無く、まずは英語能力の証明と、それから二つのFoundation CourseをパスすることでCSの学部生になることができます。英語能力の証明にはTOEFLなどのスコアを提出するか、English Composition 1という英語でやる国語のようなコースを受講し、最終試験にパスして一定の成績を修める必要があります。自分はTOEICのスコアしか持っておらず、証明書として使えなかったので後者を選びました。

English Composition 1 とは

コースの内容

English Composition 1 (ENGL 0101)は、UoPeopleで学ぶ上での基礎となる、英語力・リーディング力・ライティング力を高めることを目的としたコースです。特に「読む・書く」にフォーカスした内容となっており、文法や語彙の学習はほとんどありません。

The purpose of this course is to further develop students’ English language, reading, and writing skills as a foundation for their academic studies at UoPeople.

–– UoPeople Online Syllabus Repository (OSR)

シラバスがこちらから確認できます。

一部抜粋すると、以下のような内容を8週間かけて学びます。そして、9週目には最終試験があります。

  • ノートの取り方
  • センテンスの構造
  • パラグラフの構造
  • Descriptive と Illustrative の違い
  • Thesis と Topic の違い
  • クリティカル・リーディング
  • 参考文献の探し方
  • Abstractの分析
  • APAスタイルでの引用方法
  • 5 paragraph essay の書き方

毎週の課題

毎週木曜に課題が出されて、翌週の水曜までに提出します。以下の量が毎週出ます。週によってはWritten Assignment、Graded Quizが無いこともありました。

  • Reading Assignments:
    • テキストを読む課題。PDF、Webページ、動画があることも
  • Discussion Assignment:
    • 指定のいくつかのストーリーのうち一つ選んで読み、レビューを書く
    • 他の3人の生徒が書いたレビューに対して評価をする
  • Learning Journal:
    • 「エッセイのテーマを決めるマインド・マッピング」「コースを振り返ってみての自己評価」など、様々なテーマについて書く
    • インストラクターが評価してくれる
  • Written Assignment:
    • 「Descriptive or Illustrativeを使ったパラグラフ」「一番心に残った物語」など様々なテーマについて書く
    • 他の3人の生徒が書いたライティングに対して評価をする
  • Self-Quiz:
    • 復習用のテスト。オプションなので評価には関係ない
  • Graded Quiz:
    • 中間テスト

毎週この量を仕事をしながらこなすのは大変でした。まず木曜に内容を確認し、やることをTODOリストに書き出してから、時間配分を考えて、ひとつずつ消化する進め方をしていました。

最終試験

9週目には最終試験があります。この試験、8週間かけて学ぶ内容とは全く関係のない(!)英語能力のテストで、Oxford Online Placement Testという、外部のプラットフォームを使用します。リーディング約30問、リスニング約20問で構成されており、制限時間は80分、50点以上で合格となります。

実際に受けてみた感想は、TOEICと比較すると語彙や文法の難易度は易しめに感じましたが、会話を読んで(聴いて)話者の意図を選択する問題は、微妙なニュアンスを汲み取らないと答えられない選択肢があり難しく感じました。

結果は56点とギリギリ合格でした...。「TOEICが800点なら80点くらい取れる」とのうわさを聞いていたのですが、そんなには取れませんでした(3年前のTOEICが875点)。完全に油断していて試験対策をしなかった結果だと思います。この試験を攻略するには、コースとは別にTOEICやTOEFLのような学習も必要だと感じました。

ちなみに自分はやらなかったのですが、このOxford Online Placement Testは italki でも受験ができるようです。形式に慣れるためにも、事前に受けておけばよかったかもしれません。

受講してみた感想

ライティングのスキルがめっちゃ伸びた

今まで、アカデミック・ライティングのことを何も知らない人生でしたが、修了時には1000ワードほどのエッセイを書き上げられるようになりました。

コースでは、8週かけて 5 Paragraph Essay を書きます。5 Paragraph Essay とは、「Introduction」「3つのBody」「Conclusion」の5段落から成るエッセイのことです。まずテーマを決めて、骨組みを書き、参考文献を選び、引用を挿入して、清書という流れで週ごとに練り上げていきます。

合わせて、査読付きの参考文献の探し方や、APAスタイルでの文中引用の方法も学びます。引用については「剽窃は悪です。退学になります。必ず引用をすること」と、口酸っぱく言われます。

特に学びになったのが、情報を受け取る側が中心となる "reader-centered" を意識し、読み手が理解しやすい文章を組み立てるということです。コンテクストの共有がない読者にむけて、自分の主張と根拠をロジカルに伝えることは、想像以上に難しいものでした。はじめの頃はお作法がわからず、3-4センテンス書くのに3時間くらい費やしていました。

お作法を知れば学術的な文章が書ける

アカデミック・ライティングのお作法については、毎週のテキストの中で「パラグラフの構造」「Descriptive と Illustrative の違い」「Thesis と Topic の違い」などの解説がさらりと出てきますが、深掘りはしない印象でした。初学者の自分としてはテキストだけでは不十分だったので、この参考書を買って読みました。

これがめちゃくちゃ素晴らしい本で、具体的な手法の知見がかなり増えました。

  • 各センテンスは既知のトピックから新規のフォーカスへと情報を配置して流れを作る "end focus"
  • 受動態、It構文、There構文で情報を入れ替えて結束や強調を行う(後ろに来る語句が強調され、後に続く文に繋がる)
  • and/or で繋ぐ同質の語句は長く複雑なほうを後ろに置く "end weight"
  • 時制で書き手のスタンスを示す。主節の時制は引用した文の著者へのスタンスを示し、従属節の時制は引用した内容へのスタンスを示す
  • メタディスコースで読者を誘導する。車の運転のように適切なところでシグナルを送り、伝えたい情報へ誘導する
  • 使用頻度がまれで長い語句はより情報を際立たせる

–– 大学生のためのアカデミック英文ライティング

などなど、実用的ですぐ使える手法がたくさん載っていて「細かいけれど、知っていれば学術的な文体になるテクニック」が満載の良書でした。このように参考書を使って複合的に学ぶことで、より一層理解が深まるという気づきもありました。

エッセイの他にも、週次のブックレビュー(Discussion Assignment)やLearning Journalもあるので、毎日英文を書いていました。そのため、ライティングのスキルは向上したと思います(体感)。

論文を読むには知識が必要(それはそう)

エッセイのテーマを『地球温暖化による海洋の変化がもたらす生物への影響』にしました。なぜこのような難しそうなテーマにしたかというと、海が好きなので書けると思ったからです。

実際、自分の主張はすらすらと書くことができましたが、参考文献として海洋科学・環境化学の論文をリサーチする段階になって詰みました。論文の内容が専門的すぎて、さっぱり理解できないのです。物理とか出てくるし、ついでに英語だし、何を言ってるのか全然わからなくて、茫然と立ち尽くす状況に陥りました...。

論文の読み方を調べるためにネット記事を読み漁り、気づいたことは、そもそもの問題意識の共有ができていないということです。数式や英語がわからない以前に、その分野の知識が足りないせいだと。そのために、論文が投げかける問題提起を共有できず、何もわからないのだと。あたりまえのことすぎて衝撃でした。

そこで、参考書として海洋科学に関する二冊の新書を読み、論文を読むための予備知識をインプットしました。このあたりから、もはや何を学びに来たのかわからなくなっていました。海洋への学びが深まる日々です。しかしその行動が功を奏し、Natureに掲載の論文をどうにか(雰囲気で)読むことに成功し、無事にエッセイを書き上げることができました。

一次情報を読む意義

論文の読み方を調べていた中で目にしたこの一文が印象に残っています。

論文を頭からすべて読む必要は一切ないですが、少し気になった時にそういう細かいことを、解説者の主観を通さない一次情報として自らチェックできるようになるというのはかなり意義のあることだと思います。

–– 1日かからず論文を読めるようになるためのワークフロー

例えば、ネット記事にしても発信者の主観や感情が少なからず含まれており、その偏向を含んだ印象で情報を摂取してしまうことがあります(自分はそれがよくある)。一次情報を読むことができれば、誰かのバイアスを介さずに、事実を自分の感性で捉えられるという発見がありました。これ以降、社会問題に関する記事などは、なるべく参考文献のリソースまで見にいくようになりました。

英語力は伸びたかわからない

先にも書きましたが、このコースは「読む・書く」ことと、アカデミック・ライティングを仕上げることにフォーカスを当てています。そのため、TOEICのような英語能力テストでスコアにつながる「語彙・文法」などの力がついたかというと、わかりません。また、DeepLとGrammarlyにはだいぶお世話になっていたので、100%自力でライティングする力は、実はそこまで伸びていない気もしています。レベルチェックとして来週のTOEICを受験してみるつもりです。

リーディングは速くなった

毎日のように課題の英文を読むため、以前と比べてリーディングは速くなりました。一週間という制限時間の中で、いくつものリーディング教材を読むことを求められるので、必然的に速読になります。洋書多読の要領で、わからない単語は飛ばし、雰囲気でざっと読んで内容をつかむトレーニングになりました。

まとめと今後

仕事との両立でしんどいこともありましたが、総合的には受講してよかったです。何より、UoPeopleでの学習サイクルを体得できたことが大きいです。この先より専門的なコースを受講していくことへの自信になりました。

来週から始まる新学期は、一つ目のFoundation CourseとしてOnline Education Strategies(UNIV 1001)を受講することになっています。しかしこのコース、うわさによると課題の読み書きの量が尋常ではないらしく、今から怯えています。家事を外注したり、noshを活用するなど、生活をチートしてタイムマネジメントを徹底したいです。

とりあえずの目標である準学士号の取得まで、4年くらいはかかる見込みです。なので気長に、無理せず、学ぶこと自体を楽しんでやっていこうと思います。

*1:試験は有料。1コースにつき$120(執筆時点)

*2:In Brief | About UoPeopleより引用